第一回講演会

■タイトル:自衛隊中央病院における新型コロナウイルスへの対応
■講演者:自衛隊中央病院医院長 上部泰秀氏
■日程:2020年10月23日
■会場:赤坂インターシティコンファレンス「4階・the Amphitheater」


上部病院長
上部病院長

まず初めに、自衛隊中央病院について上部病院長より語ってもらいました。

「当院は、一般の病院と同じ平素の任務以外に、防衛省特有の各種事態等に対する任務を行っています。開設は1956年で64年の歴史があります。1993年に保険医療機関の指定を受け、地域の方々の診療を開始しました。2010年からは一般の救急患者を受け入れるようになり、2016年には2次救急医療機関の指定を受けました。2017年には第一種感染指定医療機関として、東京都の指定を受けています。医師約120名・看護師薬剤師約360名が勤務し、自衛隊病院の特性として病院全体を統制する部門である企画室があり、部隊経験豊富な自衛官で構成されています。

病院施設は、地上10階、地下2階の建物で、8階に感染症病室がありエボラ出血熱等の1類感染症対応病床及び、新型コロナウイルス、SARS、結核等の2類感染症病室を保有しています。1類対応病室は、汚染された空気が外に漏れないように3段階の陰圧『内部の圧力が外部より低い状態』が施されています。その他、感染症病棟専用のエレベーターがあり、一般患者と交差しない動線が確保されています。

診療基盤を充実・強化するため救急医療に積極的に取り組んでおり、2次救急医療機関の指定以降、救急車の受入れは年間6000台・救急患者数も1万人を超えています。」

 

自衛隊中央病院
自衛隊中央病院

続いて、今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止に係わる災害派遣活動等について説明してもらいました。

「政府チャーター機による武漢からの邦人輸送、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」への対応をはじめとし、その後市中感染期へと推移しました。ダイヤモンド・プリンセス号から感染患者が発生して大きな問題となり、前例のない危機に対応するため、まず病院として『病院は、隊員・家族・地域医療への影響を考慮しつつ、新型コロナウイルス感染症患者の最大限の受け入れを実施する。この際、長期の活動、院内感染防止、医療事故防止、そして医療情報システムの換装に留意する』と方針を定めました。

感染拡大防止に係る災害派遣活動の当初の2か月間は、第二種非常勤務態勢を取り、各部署に当直を配置し、夜間も各部署の機能が発揮できる勤務態勢をとりました。

災害派遣活動開始と同時に指揮所を開設し、ここで行った病院の意思決定をするための作戦会議は情報の共有・整理・解決に重要な役割を果たしました。

院内感染を防ぐため、一般患者・職員の動線と感染症患者の動線を可能な限り区別し、感染症患者対応要員も専従化しました。その他、個人防護の徹底と病院施設の特性に応じたゾーニングの徹底も行いました。

もちろんこの活動を遂行するためにはマンパワーが不足し支援が必要だったので、全国各地の自衛隊病院、部隊から受けました。このことにより連続した夜勤をなくし、休養日の確保も可能とし労働環境を整えることができました。

これらの施策により、災害派遣活動が終了する際に防衛省の派遣活動従事者は病院長も含め全員PCR検査を受けましたが、全員、陰性という結果でした。

この時期に対応した患者は、クルーズ船109名、チャーター機による帰国者11名、屋形船からの感染者8名を含む計128名でした。また、PCR検査態勢も整備し、500件以上の検査を実施しました。」

ダイヤモンド・プリンセス号
ダイヤモンド・プリンセス号

災害派遣終了後も、東京都の感染者急増に伴い、都の要請により中等症以上の患者の受け入れ態勢を確立し、対応したと言います。

「この時には、各地で感染者が発生していたため、全国の自衛隊病院からも支援を受けることができませんでした。酸素吸入を必要とする入院患者が10人くらいになると、医師・看護師の負担がかなり大きくなりましたが、計画的に戦力回復を行って、蓄積した疲労の軽減を図りました。

講演風景

特に大切だったことは、職員に対するメンタルヘルスケアです。 精神科医等でメンタルサポートチームを編成しいろいろな手段で情報提供等の活動を行いました。

その際、職員全員に、精神的疲労度を確認するためのメンタルヘルスチェックや不安・ストレスを確認するためのメンタルヘルスアンケートを実施しました。

改めて、現場で従事する職員のメンタルケアの大切さを私たちは知ることができました。」と上部病院長は振り返ります。

上部病院長によれば、院内感染防止・医療事故防止に大事なことは以下の点とのことです。

・マスク着用、手指消毒の徹底、一日2回のふき取り
・平素の教育、訓練、マインドの醸成などの取り組み
・各種会議やミーティングでの徹底
・現場確認、指導の徹底
・情報の共有
・余裕をもった勤務態勢の確保と休養
・必要な資材、器材の補給、整備、心身の管理

これらの施策の実行・徹底した結果として、「職員から1人の感染者も出すことなくクルーズ船等から患者を受け入れ、感染症対処初期の医療崩壊を防止するとともに、市中感染期においては、地域の患者を受け入れることで地域医療に貢献できた」と語ります。

また、都内では院内感染等の問題から高齢の発熱患者の受け入れ先が見つからない時期もありましたが、自衛隊中央病院では積極的に受け入れていました。その他小児科対応もできることもあり家族の受入れも積極的に行われていました。

 

上部病院長
上部病院長

その他、以下の事項にも取り組んでいます。

1.病院入口に外来トリアージを設置、市中感染の発生増加に伴い来院者全員に判定基準を適応し、有熱者などを区分し院内感染防止に役立てている。

2.他の医療機関との情報共有にも重きをおき、ホームページを通じて症例のまとめや感染対策に関する情報の発信に努めている。

3.新型コロナイウルス感染症流行下に新型インフルエンザが流行することを想定した訓練を行い、対処体制の強化を図っている。

その後、質疑応答の際に、「対策を施していても、その空間に感染者が出てしまった後、どの範囲まで消毒作業をする必要があるのか?」という質問に対しては、「感染者の触れた場所を全て消毒します。また陽性者の周囲の方への接触状況を確認して対応する必要もあります。やはり、手洗い、消毒・清掃、換気など、日頃からの感染対策が重要です」と回答されました。

 

講演中の上部病院長
講演中の上部病院長

コロナウイルス感染の一番多い原因は飛沫感染です。マスク着用はもちろんのこと、手指の手洗い除菌、密の状態を作らないことが感染防止に重要です。 昨今では感染してしまうのを防ぐのは難しいが、感染した人の行動や所在を特定することができれば、クラスターを防ぐことにつながるので、所在情報を得ることが重要となります。症状としては、風邪のような症状が多く、味覚・臭覚障害が多くみられるのが特異的なようです。

入院患者の行動歴を分析したところ、緊急事態宣言解除後の増加は、3密組織(バー・クラブ・居酒屋・外食・会食・ライブ・ジム・温泉)が関与していることが判明しています。

これらを利用する際の注意点としては、集会・講演など、人が集まる時には、お互いの距離1m~2m以上の間隔を保ち、入室時前の健康管理(体温チェックなど含めセルフチェック)もしっかりとする必要もあります。一般的な会食における集団感染の事例で、1mの距離を保ち着席していたところ他の同席者に感染してしまったという報告があります。

着席位置を検証すると、対面での状態が感染リスクを高くしている。 斜めや横に座っている状態だと比較的かかりにくいことも分かっています。

 

講演風景
講演風景

今回、上部病院長より、専門的な内容も含め、まさに新型コロナウイルスに対して我々が見えない分からないことへ怯えている日々を過ごす中も踏まえて、感染予防に対しての今できる事の知識などとても貴重なお話しをたくさん聞くことができました。

この内容を動画配信ができないことが、とても残念ではありますが、今後協会でもコロナウイルス対策の良いヒントをたくさん得たので、いろいろと内容をまとめ皆さまに少しでもお役に立てるように情報発信に努めていきたいと思います。

参加された方々にも、仕事や日常の行動に少しでもプラスの情報として今後活用していただければ幸いです。

現在のような情報過多の世の中に身をおいている我々に、まず必要なことは、正しい情報を得て共有することが大事だということを学びました。

大半は、無症状感染者と軽症者、特に無症状感染者はどこに潜んでいるのかわからないことからいつどこで感染してしまうのかはもちろん特定はできません。

上部病院長曰く「感染者が出てしまった後の処置、すなわちクラスターを防ぐことが大切。」とのことです。文章だけでは詳細にはお伝えできませんが、コロナウイルスが無くなることはしばらく先になりそうです。

これからの生活スタイルとしてコロナウイルスとうまく共存していくことが必要だと推察されます。いま欧州各国を中心に第2波第3波によるロックダウンが始まっています。

経済活動を止めてしまうことの方がコロナウイルスより大変な結果をまねいてしまう。必要以上に過剰反応して何も活動しないことだけは避けられるよう、お互いに意識する必要がありそうです。

我々の研修会議業界の中で、いまひとつの光が差し込むような良い情報が入ってきました。

通信最大手の企業が、研修会議をwebから集合研修に移行していく方針を固められたそうです。理由を聞くと、やはりモニターと音声だけのやり取りだけでは、お互いのコミュニケーションの限界を感じるとのことでした。 

人対人、まさにface to faceが人間のとって必要不可欠なことが再認識されています。 

我々の協会も人対人を今後もサポートしていく組織として活動していくことを改めて確認することができました。

以上